『わかった!計測器』全3シリーズ!

地震計(第3回)「地震計の用途」

これまで、地震をどのような数値で表すのか、また地震計のしくみを述べてきた。シリーズ最後の今回は、地震計がどのように使われるのか、その用途について述べる。 地震計で多くの人が身近に感じるのは、地震発生後にテレビ等で流れる震度やマグニチュード情報だろう。しかし、地震計の役割はそれだけではない。地震計は用途別に観測用と制御用とに分けられる。観測用は各地の震度計測や研究用記録のため、制御用は工場設備やインフラの安全管理のために使われる。いずれも設置環境が多岐にわたるため、静電気や磁界などによる誤作動を防ぐ対策や、複数の通信方法を設けるなどのエ夫が盛り込まれている。

観測用地震計

観測用地霙計は、地震発生後の震度情報を知らせる日的のほかに、設置箇所の地震による影響を調査するなどの研究目的でも使われる。活用例を挙げる。
◎橋梁の振動解析
気象条件や地震によって橋梁に加わる地震動を記録し、耐震性の向上や長寿命化のために活用される(図1)。
◎建物の挙動監視
地震発生時の地震動を解析し、耐震性、免震性、制震性などの向上に活用される。


制御用地震計

制御用地震計は、地震による被害を防ぐために活用されており、多くの施設に設置されている。活用例を挙げる。
◎工場
非常放送設備との連動による避難誘導、また工場ラインを制御することで火災等の二次災害を防止する(図2)。
◎浄水処理施設
配水池では緊急遮断弁との連動により、飲料水流出防止等に利用する。これにより、災害時のライフラインを確保する。
◎鉄道
地震計の地震情報をもとに列車を緊急停止させる。特に、新幹線は初期微動(P波)による早期警報システムを導入している。


地震計の設置状況

日本は世界の国々と比べると、

高密度に地需観測がなされている国である。気象庁は約20km間隔に震度計を設置しており、震度情報を発信している。また地方公共団体も、兵庫県南部地震を契機に震度情報ネットワークの整備が進められ、原則として市区町村毎に震度計を設置している。その他、民間企業や大学などを含めると、全国に設置されている地震計は1万台以上といわれている。


緊急地震速報

2007年10月に一般への提供を開始した緊急地震速報には、1000ヶ所以上※の地震計が用いられている。地震の初期微動(P波)を検知し、その後に来る主要動(S波)の強さを予測して危険を知らせるものである。予測が可能になった背景には、地震計の設置箇所が増えたことで地震発生を直ちに捉える観測体制が整ったこと、コンピュータ性能の向上により瞬時に計算が可能になったこと、推定する手法が確立されたこと、などが挙げられる。 ※気象庁(270ヶ所)および国立研究開発法人防災科学技術研究所の地震観測網(約800ヶ所) 気象庁ホームページ「緊急地震速報のしくみ」より http://www.data.jma.go.jp/svd/eew/data/nc/shikumi/shikumi.html


長周期地震動

地震の規模が大きいと、周期の長いゆっくりとした大きな揺れが発生する。このような地震動を「長周期地震動」という。長周期地震動は高層ビル等の固有周期と共振しやすい。そのため高層階で大きな揺れとなりやすく、家具類の転倒や落下等により人的被害が起こる恐れがある。 現在の震度情報では、高層階の揺れの大きさまで把握することは出来ない。そのため気象庁では2013年から「長周期地震動階級」を発表し、現在試行的に情報掲載をしている。これは、人の行動の困難さや、家具等の移動・転倒などの被害の程度を4つの段階に分けた指標である。現在は観測情報のみの提供だが、近年の高層ビルの増加により、長周期地震動の影響を受ける人口は増加すると考えられる。高所作業者やエレベータ制御などを含む多様なニーズが想定され、予測情報のあり方が検討されている[1]。長周期地震動はまだ一般に広く知られているとは言えないが、被害を未然に防ぐためにも、今後は重要な項目となっていくと思われる。


(参考文献)[1]気象庁地震火山部「長周期地震動に関する情報のあり方について(長周期地震動に関する情報検討会平成28年度報告書)」

開発部 長島 健祐

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